「正社員よりパートの方が稼げる」という話を、一度は耳にしたことがあるかもしれません。
「本当にそんなことがあるの?」と疑問に思ったり、「今の働き方のままでいいのかな…」と不安になったりしていませんか?
実は、働き方によっては、額面上の給料は正社員の方が高くても、税金や社会保険料が引かれた後の「手取り額」でパートが上回る、いわゆる「手取りの逆転現象」が起こることがあります。
この記事では、なぜそのようなことが起こるのか、その複雑な「からくり」を分かりやすく解き明かします。
さらに、それぞれの働き方のメリット・デメリットを徹底的に比較し、あなたが将来後悔しないための最適な選択ができるよう、具体的な判断基準を提案します。
正社員よりパートの方が稼げるは本当?手取り逆転のからくり
「正社員としてフルタイムで働いているのに、パートの友人の方が手取りが多い…」そんな話を聞くと、なんだか複雑な気持ちになりますよね。
しかし、これは決して珍しい話ではありません。
特に、税金や社会保険の仕組みが大きく関係する「年収の壁」を意識して働くことで、正社員よりパートの方が効率的に稼げるケースが実際に存在するのです。
この項目では、多くの人が疑問に思う「手取り逆転」の現象がなぜ起こるのか、その具体的な仕組みや背景について、一つひとつ丁寧に解説していきます。
なぜ?「年収の壁」を超えると手取りが減る仕組み
パートで働く多くの方が意識する「年収の壁」。
この壁を超えてしまうと、税金の負担が増えたり、社会保険料を自分で支払う必要が出てきたりして、年収は増えたのに手取りが減ってしまう「働き損」の状態に陥ることがあります。
これが、手取りが逆転する最大のからくりです。
壁にはいくつか種類があり、それぞれ意味が異なります。特に社会保険に関する制度は法改正も行われるため、より詳しい最新情報は「厚生労働省の社会保険適用拡大 特設サイト」で確認しておくと安心です。
103万円の壁:所得税がかかり始めるライン
年収が103万円を超えると、超えた分の金額に対して所得税がかかり始めます。
また、配偶者がいる場合、配偶者控除が適用されなくなり、配偶者の税負担が増える可能性もあります。
家計全体で考えると、大きな影響が出るポイントです。
106万円の壁:社会保険の加入義務が発生するライン(条件あり)
以下の条件をすべて満たす場合、年収が106万円を超えると、勤務先の社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられます。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 雇用期間が2ヶ月を超える見込みがある
- 学生ではない
- 従業員数101人以上の企業に勤務(2024年10月からは51人以上に拡大)
社会保険に加入すると、将来もらえる年金が増えたり、病気やケガをした際の保障が手厚くなったりするメリットがありますが、毎月の給与から保険料が天引きされるため、手取り額は大きく減少します。
130万円の壁:配偶者の扶養から外れるライン
勤務先の規模に関わらず、年収が130万円を超えると、配偶者の社会保険の扶養から外れます。
この場合、自分で国民健康保険と国民年金に加入し、保険料を全額自己負担で支払わなければなりません。
これは非常に大きな負担となり、年収が150万円程度になるまで、手取り額が130万円未満の時より少なくなってしまうケースがほとんどです。
このように、年収の壁を少し超えてしまうくらいなら、あえて労働時間を調整し、壁の内側に収入を収めた方が、結果的に手取りが多くなるという逆転現象が起こるのです。
意外と多い?正社員よりパートの方が時給高いケース
手取りの逆転現象は、年収の壁だけが理由ではありません。
実は、単純にパートの方が正社員よりも時給が高いというケースも少なくないのです。
「正社員の方が待遇が良いはずなのに、なぜ?」と不思議に思うかもしれませんね。
これには、いくつかの理由が考えられます。
専門性が高い職種
看護師、薬剤師、美容師、ITエンジニア、Webデザイナーといった専門的なスキルや資格が求められる職種では、即戦力となる人材への需要が高く、パートやアルバイトでも高い時給が設定されやすい傾向があります。
特に、人手不足が深刻な業界では、優秀な人材を確保するために、正社員の給与を時給換算した額よりも高い金額を提示することがあります。
ボーナスや退職金がない分を時給に上乗せ
正社員の給与には、月々の給料の他に、ボーナス(賞与)や退職金が含まれているのが一般的です。
一方、パートタイマーにはこれらが支給されない場合がほとんどです。
そのため、企業によっては、ボーナスや退職金がない分をあらかじめ時給に上乗せして、魅力的な求人に見せようとすることがあります。
目先の時給だけを見るとパートの方が高く見えても、年収ベースや生涯賃金で考えると、正社員の方が多くなるケースも多いため、注意が必要です。
責任の範囲や業務内容の違い
正社員は、日々の業務に加えて、部署のマネジメントや後輩の育成、長期的なプロジェクトへの参加など、より広範で責任の重い仕事を任されることが多くあります。
こうした責任の重さや業務の複雑さが給与に反映されているのに対し、パートは担当業務の範囲が限定的であることが多く、その分、時給換算での給与が高く見えることがあるのです。
扶養内で働くメリットと賢い働き方を徹底解説
配偶者がいる場合、扶養内で働くという選択は、家計にとって非常に大きなメリットをもたらすことがあります。
「扶養内で働く」とは、主に税制上の扶養(年収103万円以下)と、社会保険上の扶養(年収130万円未満)の範囲内で働くことを指します。
扶養内で働く金銭的メリット
- 自身の所得税・住民税がかからない(または非常に少ない): 年収を一定額以下に抑えることで、税金の負担をなくしたり、最小限にしたりできます。
- 配偶者の税負担が軽くなる: 配偶者控除や配偶者特別控除が適用されるため、配偶者の所得税・住民税が安くなります。
- 社会保険料の自己負担がない: 年収130万円未満であれば、配偶者の加入する社会保険の被扶養者となることができ、自分で健康保険料や年金保険料を支払う必要がありません。保険料の負担なく、健康保険証を使えたり、将来国民年金を受け取れたりするのは大きなメリットです。
扶養内での賢い働き方とは?
メリットを最大限に活かすためには、計画的な働き方が重要になります。
まずは、どの「年収の壁」を目標にするかを決めましょう。
例えば、「社会保険料の負担を避けたい」のであれば130万円未満、「所得税の負担もゼロにしたい」のであれば103万円以下を目指す、といった具合です。
目標年収を決めたら、それを12ヶ月で割り、1ヶ月あたりの収入の上限を計算します。
そして、自分の時給と照らし合わせて、1ヶ月に何時間まで働けるかを把握しておくことが大切です。
特に、年末に近づいて思ったより収入が増えてしまい、慌ててシフトを減らすといったことがないように、毎月の給与明細を確認し、年間の収入を管理する習慣をつけましょう。
【職種別】看護師など正社員よりパートの方が稼げる仕事とは?
特定の職種、特に専門スキルが求められる分野では、「正社員よりパートの方が稼げる」という状況が生まれやすくなります。
その代表例が看護師です。
看護師は慢性的な人手不足であり、資格を持つ人材の需要が非常に高い職業です。
そのため、パートや派遣でも高時給の求人が多く、特に夜勤専従などの働き方を選べば、日勤の正社員よりも短時間で効率的に高収入を得ることが可能です。
また、正社員として働く場合、夜勤や残業、委員会活動などが必須となることが多いですが、パートであれば「日勤のみ」「週3日だけ」など、自分のライフスタイルに合わせて柔軟に働き方を選べるメリットもあります。
看護師以外にも、以下のような職種で同様の傾向が見られます。
- 薬剤師: 調剤薬局やドラッグストアなどで、パートでも高い時給が期待できます。
- 美容師・理容師: スキルがあれば、高単価のサロンで短時間でもしっかり稼ぐことが可能です。
- ITエンジニア・プログラマー: プロジェクト単位で働くことも多く、フリーランスに近い形で高収入を得られる場合があります。
- Webデザイナー: 専門スキルを活かして在宅ワークも可能。複数のクライアントと契約して収入を増やすこともできます。
これらの職種に共通するのは、「専門的な資格やスキル」が収入に直結する点です。
スキルさえあれば、組織に縛られずに自分の価値を高く評価してくれる場所で、効率的に働くという選択肢が見えてくるでしょう。
結局、フルタイムパートと正社員はどちらが得か比較
では、同じくらいの時間働く「フルタイムパート」と「正社員」では、結局どちらが得なのでしょうか。
これは、何を重視するかによって答えが変わってきます。
短期的な手取り額だけでなく、様々な要素を総合的に比較して判断することが重要です。
比較項目 | 正社員 | フルタイムパート |
---|---|---|
月々の手取り | 安定しているが、社会保険料などが引かれる | 時給によっては正社員を上回る可能性がある |
ボーナス・賞与 | ある場合が多い | ない場合が多い |
退職金 | ある場合が多い | ない場合が多い |
昇給・昇進 | 機会がある | 機会は少ない |
福利厚生 | 住宅手当、家族手当など充実していることが多い | 交通費支給程度の場合が多い |
社会的信用 | 高い(ローン審査などで有利) | 正社員に比べて低い |
雇用の安定性 | 高い(解雇されにくい) | 契約更新がないリスクがある |
働き方の自由度 | 低い(転勤や部署異動の可能性がある) | 高い(勤務地や時間を選びやすい) |
将来の年金 | 厚生年金に加入するため、受給額が多い | 国民年金のみの場合、受給額は少ない |
表を見ると分かるように、短期的な手取り額や働き方の自由度を重視するならフルタイムパート、長期的な安定性や生涯賃金、福利厚生を重視するなら正社員に軍配が上がると言えるでしょう。
どちらか一方が絶対的に得、ということはありません。
ご自身のライフプランや価値観と照らし合わせて、最適な働き方を見つけることが大切です。
正社員よりパートの方が稼げる働き方で後悔しないための注意点
「正社員よりパートの方が、手取りも多いし自由な時間も増えるなら、そっちの方がいいかも」と感じた方もいるかもしれません。
しかし、その選択にはメリットだけでなく、見過ごせないデメリットや注意点も存在します。
目先の収入や働きやすさだけで決めてしまうと、後々「こんなはずじゃなかった」と後悔することにもなりかねません。
この項目では、正社員よりパートの方が稼げるという働き方を選ぶ前に、必ず知っておくべき注意点について、長期的な視点から詳しく解説していきます。
将来の自分を見据えて、後悔のない選択をするための知識を身につけましょう。
パートタイムで働くデメリット!将来の年金や安定性は?
パートタイムという働き方は、柔軟性が高い一方で、正社員と比べて不安定な面があることを理解しておく必要があります。
特に、将来に関わる重要なポイントがいくつかあります。
将来受け取る年金額が少なくなる
最大のデメリットの一つが、年金の問題です。
正社員は、国民年金に加えて厚生年金にも加入します。
厚生年金保険料は会社と折半で負担しますが、その分、将来受け取れる年金額は国民年金のみの場合と比べてかなり多くなります。
一方、扶養内で働くパートや、社会保険に加入しない働き方を選んだ場合、加入するのは国民年金のみです。
現役時代の収入に差がなくても、老後に受け取る年金額には大きな差が生まれ、生活水準に影響を及ぼす可能性があります。
雇用の安定性が低い
正社員は、法律で雇用が手厚く守られており、企業の業績が悪化したとしても、簡単に解雇されることはありません。
しかし、パートタイマーは有期雇用契約であることが多く、「契約期間の満了」を理由に更新されず、職を失うリスクが正社員よりも高くなります。
景気の変動や会社の経営方針の転換によって、突然収入の道が閉ざされてしまう可能性があることは、常に念頭に置いておくべきです。
社会的信用が低い場合がある
住宅ローンや自動車ローン、クレジットカードの審査などでは、安定した収入があるかどうかが重視されます。
一般的に、正社員はパートタイマーに比べて社会的信用度が高いと判断され、審査に通りやすい傾向があります。
将来的に大きな買い物を計画している場合は、パートという働き方が足かせになる可能性も考慮しておきましょう。
「パートから正社員を目指したけど後悔…」よくある失敗談
「子育てが落ち着いたから、パートから正社員になって収入を安定させたい」と考える方は少なくありません。
しかし、そのキャリアチェンジが必ずしも良い結果につながるとは限らず、後悔してしまうケースもあります。
よくある失敗談としては、以下のようなものが挙げられます。
- 責任だけが増えて給料はあまり変わらない: 正社員になった途端、会議への出席や後輩の指導、クレーム対応など、責任の重い仕事を任されるようになります。しかし、給与はパート時代と大差なく、「仕事量と責任だけが増えて割に合わない」と感じてしまうケースです。正社員になった場合とパートとで給料が変わらないのであれば、業務内容や責任範囲を事前にしっかり確認することが重要です。
- 勤務時間の融通が利かなくなった: パート時代は可能だった「子供の急な発熱による早退」や「学校行事のための休暇」などが取りにくくなり、仕事と家庭の両立が難しくなってしまうことがあります。
- 人間関係の変化: 同じ職場で働いていても、立場が変わることで周囲の見る目が変わったり、同僚との関係がギクシャクしてしまったりすることもあります。
もちろん、パートから正社員になってキャリアアップに成功する人も大勢います。
大切なのは、登用後の労働条件や業務内容、求められる役割について、事前に会社側と十分にすり合わせを行うことです。
安易に「正社員になれば安泰」と考えるのではなく、自分にとって本当にメリットのある選択なのかを見極める必要があります。
45歳から働き方で悩む…パートか正社員かの判断基準
45歳前後になると、子育てが一段落したり、親の介護が始まったりと、ライフステージに大きな変化が訪れる方が多くなります。
また、自身の体力や老後のことも本格的に考え始める時期でもあります。
「このままパートを続けるべきか、それとも今から正社員を目指すべきか」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
45歳からパートか正社員かを選択する際には、以下の点を判断基準にすることをおすすめします。
1. 健康や体力を最優先に考える
これから先、無理なく働き続けるためには、健康であることが何よりも大切です。
正社員になると、勤務時間や業務内容によっては体力的な負担が大きくなる可能性があります。
自分の体力と相談し、心身ともに健康を維持できる働き方を選ぶという視点を持ちましょう。
2. 老後の資金計画を立てる
65歳、70歳になった時に、どのような生活を送りたいかを具体的にイメージしてみましょう。
そのためには、いくら必要なのかを試算し、年金の見込み額も確認します。
不足する分を補うために、今から厚生年金に加入できる正社員を目指すのか、それともパートで働きながらiDeCoやNISAなどで積極的に資産形成を行うのか、長期的な視点で計画を立てることが重要です。
3. これまでの経験やスキルを活かせるか
45歳からのキャリアチェンジでは、未経験の職種に挑戦するよりも、これまでに培ってきた経験やスキルを活かせる仕事を選ぶ方が成功しやすいと言えます。
自分の強みを活かせる職場であれば、正社員としても採用されやすく、やりがいを感じながら働き続けることができるでしょう。
注意!正社員よりパートの方が勤務時間が長いケースも
「パートは勤務時間が短い」というイメージがあるかもしれませんが、注意が必要です。
特に人手不足の職場では、本来のシフト時間を超えて残業を頼まれたり、休日出勤をお願いされたりすることがあります。
サービス残業が常態化しているような職場では、結果的に正社員よりパートの方が勤務時間が長いという、本末転倒な事態に陥ることもあり得ます。
雇用契約を結ぶ際には、以下の点を確認しましょう。
- 所定労働時間
- 残業の有無や頻度
- 残業代の支給条件(1分単位で支給されるかなど)
契約内容をしっかり確認し、もし実態と異なる場合は、勇気を持って上司や会社の担当部署に相談することが大切です。
自分の時間を守り、健全に働くためにも、曖昧な条件で働き始めないようにしましょう。
給料が変わらないなら正社員?キャリアプランから考える選択
もし、パートでフルタイム働いた場合の手取り額と、正社員として働いた場合の手取り額がほとんど変わらないとしたら、どちらを選ぶべきでしょうか。
パートか正社員か悩んでますという方への最後のアドバイスとして、短期的な給料だけでなく、ご自身の長期的なキャリアプランから考えてみることをお勧めします。
キャリアアップやスキルアップを目指すなら正社員
将来的に管理職を目指したい、専門的なスキルを身につけて仕事の幅を広げたいと考えているなら、正社員の方が有利です。
企業は、長期的に会社に貢献してくれる正社員に対して、研修の機会を設けたり、重要なプロジェクトを任せたりする傾向があります。
経験を積むことで、さらなる収入アップや、より良い条件の会社への転職にもつながる可能性があります。
ワークライフバランスを重視するならパート
仕事以外の時間、例えば趣味や家族との時間、あるいは学び直し(リスキリング)の時間を大切にしたいのであれば、パートという働き方が適しているかもしれません。
働く時間や場所を自分でコントロールしやすいパートのメリットを活かし、ダブルワークで収入源を増やしたり、将来のために新しいスキルを学んだりすることも可能です。
最終的にどちらの働き方が「得」なのかは、あなたが何を大切にし、どのような人生を送りたいかによって決まります。
目先の損得勘定だけでなく、5年後、10年後の自分の姿を想像しながら、後悔のない選択をしてください。
まとめ:正社員よりパートの方が稼げる?後悔しない働き方の選び方
この記事では、「正社員よりパートの方が稼げる」という現象のからくりと、それぞれの働き方のメリット・デメリットについて詳しく解説しました。
「年収の壁」を意識することで、税金や社会保険料の負担をコントロールし、結果的にパートの方が手取り額で上回るケースがあるのは事実です。
しかし、その選択には将来の年金額の減少や雇用の不安定さといった、長期的な視点で見過ごせないデメリットも存在します。
一方で、正社員は安定性や手厚い福利厚生が魅力ですが、責任が重く、働き方の自由度は低くなりがちです。
どちらか一方が絶対的に「得」ということはありません。
大切なのは、目先の収入額だけで判断するのではなく、ご自身の5年後、10年後のライフプランやキャリアプランを思い描いてみることです。
あなたが仕事や人生において何を最も大切にしたいのか、その価値観こそが、後悔しない働き方を選択するための最も重要な道しるべとなるでしょう。
この記事が、あなたにとって最適な働き方を見つけるための一助となれば幸いです。
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